地産地消の精神を学ぶ。千葉県唯一の農業専門高校、旭農の野球部員は毎日、学内の養鶏場で取れた卵を練習後の補食に食べている。栄養補給としてだけでなく、食べ物への感謝を忘れない、農業高ならではの取り組みだ。

千葉県唯一の農業専門高校

 練習の締めの筋トレを終えると、女子マネジャーが大量のゆで卵をざるに入れてグラウンドにやってくる。歩いてすぐの養鶏場で毎日収穫する取れたての卵。20分かけて固ゆでにし、1人1個食べるのが旭農野球部の日課だ。

練習後に毎日ゆで卵を食べる旭農野球部
練習後に毎日ゆで卵を食べる旭農野球部

 つるんとしたゆで卵に、塩を振りかける。実家が農業と造園業を営む高橋弘平内野手(3年)は「新鮮ですごくおいしいです」と笑ってほおばった。運動後の筋肉の合成には、良質なタンパク質が必要とされる。完全栄養食といわれるほど栄養価の高い卵は、練習直後の補食にうってつけの食材なのだ。

 農業地帯である千葉・東総地区に位置する、県内唯一の単独農業高校。広々とした学内には畑が広がる。養鶏場、養豚場、酪農用の牛舎もある。すぐ隣に「命」がある。吉田純明監督(35)は「食べ物のありがたみは、他の学校さんより感じるかもしれないですね」と話し、歩き始めた。

 案内された先にはビニールハウスがあった。初夏。中には弾力のある真っ赤なトマトがなっていた。「育てたものは農協に出荷したり、地域に直接販売に行ったりします。余りは生徒たちで食べますよ」。キュウリ、ナス。トウモロコシは学校でゆでる。季節ごとに旬の野菜を、練習の終わりにいただく。

 畜産科の生徒は牛や豚にえさを与える。生産技術科なら野菜や花を育てる。授業の一環として、小学生と田植えをしたり、幼稚園児とサツマイモを掘ったりもする。狩野和敏教頭(51)は実感する。「高校で道徳が必修になって数年たちました。うちは動物もいますし、命を大切にするとか、そういうのを考えるいい機会になっていると思うんです」。食育への意識は、自然と高まった。

学内のとうもろこし畑で集合する旭農野球部
学内のとうもろこし畑で集合する旭農野球部

 動植物を育て、食し、自分も育つ。新鮮なものを食べると、体も元気になる。吉田監督は力を込める。「あとは農業高校を元気にしたいんです。甲子園だって工業、商業はたまに見るけど、農業って出てこないですよね」。全国的にも過去、農業高で甲子園出場実績があるのは6校のみ。07年夏の金足農(秋田)を最後に、聖地から遠ざかっている。

 昨夏は初戦で強豪の木更津総合と当たり、千葉大会初戦で敗退した。3年生は夏、未勝利だ。宇野沢裕介主将(3年)は「一生懸命プレーして、ベスト16を目指したい」と意気込んだ。自給自足パワーで、旭農が農業高校界に新たな息吹をもたらす。【鎌田良美】

旭農

 創立106年目を迎えた千葉県唯一の農業高校。畜産科、生産技術科、食品流通科、生活科学科の4学科からなる。畜産科は酪農や養鶏、養豚、生産技術科は野菜や果樹、造園技術などの実習がある。近隣農家を借りての田植え体験もあり、過去には育てた米を東大などに出荷していた。食品流通科ではパンやジャムも作る。所在地は旭市ロ1番地。鈴木智校長。

(2016年6月15日付日刊スポーツ紙面から)