<Bリーガーの食卓:川崎ブレイブサンダース(中)>

 練習後すぐに食べられる栄養バランス抜群の食事。選手の家族にまで及ぶ栄養指導…。男子バスケットボールBリーグ、川崎ブレイブサンダースの恵まれた食環境を作り上げたのが、アスレティックトレーナーの吉岡淳平さんだ。チームに着任した当時の様子や、改革の影響について話を聞いた。

3食とる習慣のない選手も多かった

 吉岡さんは青学大男子バスケットボール部やバスケットのユニバーシアード男子日本代表チーム、日本航空女子バスケットボール部、サントリーラグビー部を経て、2009年に川崎の前身、東芝バスケットボール部に着任した。当時トップリーグに所属する選手たちの栄養状態の悪さに驚いたという。

吉岡淳平アスレティックトレーナー
ⓒKAWASAKI BRAVE THUNDERS
吉岡淳平アスレティックトレーナー ⓒKAWASAKI BRAVE THUNDERS

 「なぜこんなに体が細いんだろうと思ったら、食事にかけるお金と環境が整っていなかったんです。午前中の業務を終えたら、コンビニ飯を食べて練習を開始するのが当たり前でしたし、既婚者の食事にチームはノータッチ。朝昼夕の3食をしっかりとる習慣のない選手も多く、独身選手たちは平気で寮の食事を残していました」。

 日本航空では1食約5000キロカロリーの食事をとれるようになっており、サントリーも練習後すぐに全員で食事をとれる環境が整備されていた。「食環境を整えない限り、強くなるものもならないし、いいコンディションの選手をチームに渡せない」との思いから、2015年のクラブハウス建設をきっかけに、大改革を始めた。

 まずは、独身選手だけでなく既婚選手も食堂で昼食と夕食をとるスタイルに変更。手軽に栄養がとれる卵、納豆、チーズ、ヨーグルトを常備し、ドリンク類の充実もはかった。

 調理を請け負う会社と管理栄養士の花谷遊雲子(ゆうこ)さん、吉岡さんの3者で献立や調理方法を意見交換する体制も作った。「例えば、以前は朝から揚げ物が出ていたので、控えてもらっています」(吉岡さん)。

食堂に掲示されていた啓発ポスター。クラブハウスから一番近いコンビニや、選手行きつけの飲食店での食事のとり方もアドバイス
食堂に掲示されていた啓発ポスター。クラブハウスから一番近いコンビニや、選手行きつけの飲食店での食事のとり方もアドバイス

 週に1度、二澤卓馬マネジャーも含めた4者で「栄養ミーティング」も実施。スケジュールに合わせて食事の内容やタイミングを変えたり、掲示物を作ったりしている。

谷口は8キロ増、栗原は野菜を意識

跳躍力を武器にプレーする谷口光貴
ⓒKAWASAKI BRAVE THUNDERS
跳躍力を武器にプレーする谷口光貴 ⓒKAWASAKI BRAVE THUNDERS

 栄養改革の効果は、選手たちにも如実に現れている。3年目の谷口光貴は入団時から体重が約8キロ増量。「跳んだり跳ねたりが得意な選手なので、体重が増えて動きが遅くなるのが怖いという意識もあったようですが、今は重さを感じずプレーできています」(吉岡さん)。

粘り強いディフェンスで流れを作る栗原貴宏
ⓒKAWASAKI BRAVE THUNDERS
粘り強いディフェンスで流れを作る栗原貴宏 ⓒKAWASAKI BRAVE THUNDERS

 2児の父である栗原貴宏は、夕食の時間が早くなったことを一番の変化に挙げる。「今までは帰宅後、子どもの食事の時間に合わせていましたが、今は自主練が終わってすぐの18時ごろに食べられます」。独身時代は野菜をほとんど食べず、肉主体の食事。「体調を崩すことが多かったですね。練習を休んだら体作りもリセットされてしまうので、野菜も意識的に食べればよかったです」と反省を口にした。

 吉岡さんの着任当時、チームは低迷期にあった。しかし2012-13シーズンの準優勝を足がかりに、一気に強豪の座にのし上がった。「『これがあるから勝った』とは言わないけど、『これもあるから勝てるんだ』と言ってもらえるようになりたいですね」(吉岡さん)。吉岡さんが作りあげた環境を土台に、川崎は持ちうる力を着実に発揮し、結果を出している。【青木美帆】

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