<アスリートの摂食障害(1)>

 摂食障害とは、食べ物を普通にとることができなくなる心の病気。大きくは、低体重にこだわる「拒食症(神経性やせ症)」と、異常な量の食物を食べては嘔吐や下剤を使用する「過食症(神経性過食症)」に分けられる。拒食症で始まり、過食症へ移行し、両方を繰り返す人も少なくない。

 本人に自覚症状がなく、受診しない人もいるため、実際の患者数は不明だが、軽症のものを含めると、若い女性の約1割がこの障害の症状を持っていると考えられている。低栄養のために身長が伸びなかったり、若くして骨粗しょう症や消化器の機能低下、妊娠・出産に影響、重症になると命に関わる合併症が起こったりもする。完治するには10年以上の長い年月がかかるとも言われている。

審美系競技や長距離選手に多い

 スポーツにおいては、選手のスタイルが審査対象にもなる審美系競技の体操、新体操、バレエ、フィギュアスケート、体重が軽い方が記録がでやすいとされる陸上長距離や柔道・レスリングなどの階級制スポーツの選手がなりやすいとされている。「アスリートの三主徴」と呼ばれるやせ、無月経、骨折が多く、有病率は一般女性の3倍と報告されている。

摂食障害の治療を理由に平昌五輪を断念したグレーシー・ゴールド(写真は2013年11月9日、NHK杯)
摂食障害の治療を理由に平昌五輪を断念したグレーシー・ゴールド(写真は2013年11月9日、NHK杯)

 実際、元フィギュアスケート選手の鈴木明子さんは、摂食障害だった自らの体験を告白。米国の人気フィギュア選手のグレーシー・ゴールドはその治療のため、平昌五輪出場を断念した。競技成績を重視する半面、成長期の健康や体作りに気を配らなかったため、本来のパフォーマンスを発揮せずに引退してしまう選手も多い。

都市部・高偏差値・努力家

 半世紀以上、その治療に携わっている日本摂食障害協会(JAED)副理事長の鈴木裕也氏によると、データ上でもアスリート、特に女子は摂食障害になる危険性が高いという。

 摂食障害は1980年代から増え始めた「近代病」で、患者数の多い地域、環境としては「都市部」「偏差値の高い女子高校」。最近では「親が教育者」「しつけがしっかりしている家庭」「真面目で知的レベルが高い」「有能なスポーツ選手で努力家」「芸能人」といった傾向があるという。

 単純に「ダイエットしていたら止まらなくなった」というものではなく、思春期の脳の成長や心と関係するもの。従って、指導者や周囲の言葉を真面目に受け止め、過度に努力してしまうジュニアアスリートは、競技や種目にかかわらず、発症しやすいのだという。

「世界摂食障害アクションディ2018」で現況を説明するJAED理事の鈴木眞理氏
「世界摂食障害アクションディ2018」で現況を説明するJAED理事の鈴木眞理氏

 JAED理事の鈴木眞理氏は、陸上部に所属する女子高校生が「体重を減らせばパフォーマンスが上がる」と過度のトレーニングと減量に励んだ末に摂食障害になった例を紹介。アスレシピでも、陸上女子100メートルハードルで世界陸上にも出場した寺田明日香(現ラグビー選手)が、発症から引退した経緯についても掲載した。

陸上のトップアスリートだったが、摂食障害により引退。今はラグビー選手として東京五輪に挑戦する寺田明日香(写真は2010年6月6日、陸上日本選手権・最終日)
陸上のトップアスリートだったが、摂食障害により引退。今はラグビー選手として東京五輪に挑戦する寺田明日香(写真は2010年6月6日、陸上日本選手権・最終日)

早期発見へ周囲が観察

 ジュニア世代、女子アスリートへの指導、支援については研究・開発の途上にあるが、6月に行われたJAED主催の「世界摂食障害アクションディ2018」は、「アスリートの摂食障害を考える」というテーマでシンポジウムを開催し、多くの登壇者が現在の状況を説明し、警鐘を鳴らした。

 特に思春期の患者は、症状を誰かに打ち明けることはないという。早期発見のためには、保護者や周囲が注意深く観察するしかなさそうだ。スポーツ選手は、成長と運動で使うエネルギーを確保するため、必要最低限の食事は摂らなければならない。食事量の減少、過度のトレーニング、表情の乏しさなどのサインを見つけたら、まずはかかりつけ医や自治体の保健センターに相談してほしい。

【取材:青木美帆、アスレシピ編集部・飯田みさ代】