肉や魚のほか、乳製品や卵も一切口にしないビーガン(完全菜食主義者)は、欧米を中心に世界規模で急増しており、2017年の調査で米国の人口の約6%がビーガンであると発表されています。野菜を中心としたプラントベース(植物由来の食べ物をベースにした食事)を実践する人の中には、自身の子どももビーガン食で育てる人も少なくありません。
しかし、このほどベルギー政府の諮問機関であるベルギー王立医学アカデミーが「極端に偏ったビーガン食は子どもや妊婦を危険にさらす」と発言し、行き過ぎたビーガニズム(ビーガンを実践するライフスタイル)に警鐘を鳴らしたことで、ビーガン先進国の米国にも波紋が広がっています。
同アカデミーは「子どもや10代の若者、妊婦や授乳中の女性はビーガンを行うべきではない」との見解と共に、「子どもの成長には肉や乳製品に含まれる動物性脂肪、アミノ酸は必要不可欠で、子どもにビーガンを強要する親は起訴されるべきだ」との小児科医のコメントを発表しました。
保護者の独自判断とルールで栄養失調に
同アカデミーによると、ベルギー国内で動物由来の成分を含む食品を全く摂取せずに育つ子どもは約3%おり、適切な食事の管理がされていない場合には、栄養欠乏症や発育不全などにつながる可能性が高いと指摘。ビーガンで子育てするには、医療専門家のサポートや定期健診、サプリメントの摂取が必要とされるものの、実際には多くの親が独自の判断とルールで行うことが多いとしています。17年には同国で、ビーガンの両親が乳児にグルテンフリーのビーガン食を与え続けた末に、生後7カ月で死亡させたとして有罪判決を受けるなど、学校や病院で子どもの栄養不足に関する報告が増えているとも話しました。
これに対し、英国の栄養士協会は「十分に計画されたビーガン食は、全ての老若男女に対して健康的な生活を提供することができる」と反論。しかし、過度な健康志向から、幼い子どもにも徹底したビーガン食を強いる両親が増えており、このような論議はベルギーに限らず、動物性食品に含まれるビタミンB12の欠乏で幼児が病院に搬送されるケースが相次いだイタリアでも起きており、16年には子どもにビーガン食を強いた親に対して禁固刑の罰則を与える法案が議会に提出されています。
また、米国やオーストラリアでも、厳格なビーガン食で栄養不足となった子どもの母親が虐待容疑で逮捕されるケースもあり、乳幼児の健康面への影響に対する科学的検証の必要性も叫ばれ始めています。
セレブ推奨でおしゃれなイメージ
米国では、ビーガン食は体質的に動物性食品を受け付けない人以外にも、ダイエット効果や心筋梗塞、高血圧、脳梗塞などのリスクを軽減させ、死亡率を下げるとの報告があることから健康のために行う人が多い一方で、動物愛護や温室効果ガスの削減など環境問題への取り組みから思想的に実践する人も少なくありません。また、最近ではビヨンセら多くのセレブもビーガンを推奨していることから、ビーガニズムは健康でおしゃれなイメージが強いことも極端な食生活に拍車をかけている要因の1つと言われています。
幼い頃から野菜をたくさん食べさせるのは悪いことではありません。しかし、成長過程の子どもや運動量の多いアスリートには動物性タンパク質も必要であり、何事もバランスよく、偏らずが大切。特に、子どもの栄養失調や若い女性の生理不順などが世界各国で言われ始めた今、健康維持や子どもの発育には、野菜も肉や魚もバランス良く摂取することが必要だというのは万国共通の見解のようです。
【ロサンゼルス=千歳香奈子通信員】