剛球で号泣する準備はできた。石川県勢初の甲子園制覇を狙う星稜・奥川恭伸投手(3年)が、同じく初優勝狙う履正社(大阪)との22日決勝に先発する。

練習で笑顔を見せる星稜・奥川(撮影・横山健太)
練習で笑顔を見せる星稜・奥川(撮影・横山健太)

準決勝から中1日で体調も回復見込み。「勝っても負けても泣く」と全てを出し尽くすつもりだ。センバツで完封負けしている履正社は、巨大スクリーンに奥川を映し出すマル秘対策で決戦に備えた。

修羅場をくぐり抜けてきた男の、悟ったような表情だった。「万全ではないけど、十分に投げられる状態で明日(22日)に向かえると思います」。奥川は慎重に言葉を選びながら、緊張は感じさせなかった。何重にも囲んだ報道陣に笑顔で対応した。

先発は確実だ。この日はブルペン入りせず、キャッチボールを終えると林和成監督(44)に「どんな感じや」と聞かれた。「全然大丈夫です」と即答した。林監督は「これから宿舎に帰って彼と話しますが、私の思いは決まっているし、本人も決まっていると思う」とした。ボールを受けた左腕寺沢は、準決勝の前日よりもいい状態と証言した。

会話を交わす星稜・林監督(左)と奥川(撮影・横山健太)
会話を交わす星稜・林監督(左)と奥川(撮影・横山健太)

ここ4日間で投げたのは準決勝・中京学院大中京戦の7回、87球だけ。しかも打たせてとる投球で余力を残した。投げるたびに底なしの能力を披露してきた右腕。ラストは迷うことなくリミッターを外す。

「持っているものをすべて出さないと抑えられる相手じゃない。2年半の集大成を表現できたらいいと思う。春とは全然別のチームになっている。同じ印象を残して投げたら打たれる。向こうも2回自分を見ているので、臨機応変に対応していきたい」。履正社にはセンバツで3安打、17奪三振の完封。6月の練習試合でも6回1失点で勝った。だが好投手ばかりを打ち砕いてきた大会NO・1の強力打線も進化。最強右腕として「ほこ・たて」対決で負けるわけにいかない。

準決勝の夜にはサプライズも。大阪市内の宿舎「アパホテル」に、石川県発祥の同ホテルの元谷芙美子社長(72)が訪問。ナインの前で約10分間、テンション高く激励し、カレーの差し入れもあった。孫が奥川のファンといい、握手も交わした。「びっくりしました」と右腕も喜んだ。

「みんなでマウンドに集まりたい。試合後のアルプスへのあいさつの時は、勝っても負けても泣いていると思います」。支えてくれた人たちのために、深紅の大優勝旗をつかむ。【柏原誠】

◆センバツVTR 奥川が毎回の17三振を奪い、3安打完封。打線は1回に山瀬の適時打で先制し、7、9回にも小刻みに加点した。履正社は9回、1死一、三塁と攻めたが、4番井上が併殺に倒れた。

◆星稜の95年夏決勝 山下智茂監督の下、2年生左腕の山本省吾(元ソフトバンク)を擁し決勝進出。初回に先制したが、2回以降は立ち直った帝京の2年生白木隆之に抑えられた。

(2019年8月21日、ニッカンスポーツ・コム掲載)