長期戦を「北出丼」で乗り越える。ラグビーW杯で初の4強を目指す日本代表が15日、準々決勝の南アフリカ戦(20日、東京・味の素スタジアム)に向けて都内で再始動。1次リーグで出場機会がなかったフッカー北出卓也(27=サントリー)は、自らが流行の発信源になった「北出丼」の存在を明かした。今大会出番のない5人もメンバー争いを激化させ、登録31人が「ONE TEAM」で強敵を食いにかかる。
代表31人の一体感が、記者会見の入場に象徴された。都内ホテルの大広間。右前方の扉が開くと、フッカー北出、フランカー徳永、プロップ木津が三位一体で現れた。試合前のウオーミングアップ後、主将を先頭に、前の人の肩に手を置いてロッカー室に戻る恒例の儀式。今大会出場機会のない北出は「ピッチに立っていたいというのは、常に持っている気持ち。でも、チームが勝つのはうれしい」と素直な心境を明かした。
4連勝で決めた8強の裏には、試合メンバーから外れた選手の支えがある。練習で組み合うスクラム。北出は「僕らが意識するのは、試合以上のプレッシャーをかけること」と胸を張る。食事はバイキング形式だが、長期間のホテル暮らしには飽きもくる。小腹がすいたある日、ごはんに高菜、めんたいこ、しらす、ネギをかけ、最後に卵とごま油を添えて食べていると、周囲が「何それ!?」とまねを始めた。通称「北出丼」の発案者は「今では選手の7割が食べています」とオチをつけて笑わせた。
個々の思いは複雑だ。試合でウオーターボーイを務める徳永は「毎週(メンバーに)入りたいと思っていて、外れたら、どうしても落ち込む」。それでも他のFWと相手ラインアウトを分析し、試合では首脳陣の指示を選手に届ける。「ずっと引きずらない。勝つためにはサポートが大事」。決して腐らない姿勢は、ピッチで戦う23人の力の源だ。フッカー堀江は「メンバー外がいなければ、出ている選手たちはいい練習できていない」と感謝を示す。
SH茂野、WTBモエアキオラを含めた5人は、W杯初出場を諦めない。その決意を代表するように、茂野は「どこで試合に出られるチャンスがあるか分からないので、常に準備する」と力を込めた。激しい競争はもちろん、ピッチを離れれば「北出丼」で生まれる一体感。本当の「ONE TEAM」が、日本を高みへ押し上げる。【松本航】
(2019年10月15日、ニッカンスポーツ・コム掲載)