「スポーツ栄養学」は30年ほど前から著しく進歩し、食事の質や摂取の仕方によって、コンディションやパフォーマンスに大きな違いが生じることが明らかになってきた。かつて「運動中に水を飲むな」「試合に勝つためにカツ丼を食べる」といった根性論や験担ぎがまかり通っていた時代があったが、今はエビデンスに基づいたスポーツ栄養学による食事、栄養摂取方法が知られるようになってきた。

これらの研究を最前線で行い、多くのスポーツ栄養士を育ててきた早稲田大学スポーツ科学学術院名誉教授の樋口満氏が4月、「スポーツする人の栄養・食事学」(集英社新書、定価840円+税)を上梓し、アスリートがより良い結果を出すための栄養・食事術をQ&A形式で答えている。

現在も、学生時代から親しむボート競技で世界大会を目指し、トレーニングを積んでいるという樋口名誉教授
現在も、学生時代から親しむボート競技で世界大会を目指し、トレーニングを積んでいるという樋口名誉教授

樋口名誉教授は「競技種目やジュニア、ミドル、シニアといった年齢層、性別はもちろん、練習期、試合前日、試合当日、試合後、減量中、増量中、ケガからの回復期などで、とるべき食事や栄養のタイミングはすべて異なります。ただ、アスリートとしてのレベルに関わらず、コンディションが整った体を作るのは日々の食事であり、それによる適切な栄養摂取です」と説明する。

この本が対象とする「スポーツをする人」とはプロアスリートからスポーツ愛好家まで、また年代もジュニアからシニアまでと幅広い。食事や栄養にそれほど知識がない人でも分かるように、誰もが思い浮かべる素朴な質問を取り上げ、科学的な裏付けを示しながら食事の大切さを説いている。

【質問項目から抜粋】
Q、好き嫌いが多く栄養が偏りがちです。改善するにはどうしたらいいですか?
Q、筋肉をつけるためには、やはり肉を食べないといけませんか?
Q、スポーツをする人は、できるだけ体脂肪を減らしたほうがいいのでしょうか?
Q、食が細く、栄養が足りているか不安です。なにか工夫できることはありますか?
Q、ケガや故障でスポーツができない間、食事で気をつけることはなんですか?
Q、無理なく減量するために、食事で気をつけなければいけないことはなんですか?
Q、朝食をしっかりとる時間がないときはどうしたらいいですか?

スポーツする人の栄養・食事学
スポーツする人の栄養・食事学

スポーツをする上での栄養情報が広まったとはいえ、いまだ古い常識や間違った認識のままでいたり、年代や性別、タイミングを誤って使い、栄養素の過不足を招いている場合もある。樋口名誉教授は「まずは多くの人に、正しい情報を知ってもらいたい」と力を込める。

さらに、「アスリートの食事は大変だと思っている人もいますが、実はそうではないし、特別なものを用意する必要もありません。基本は『主食、主菜、副菜(1)、副菜(2、汁物含む)、牛乳・乳製品、果物』の5つの料理区分を揃えること。私たち日本人の食事はそもそも、そういうことに対応しやすい優れた食事です。家族で同じ食事をする場合、その人の目的やエネルギー摂取量によって、食べる量を足し引きしていけばいいだけです」と、家庭でも実践できることだと話した。

それらの知識が学べる一冊となっている。

樋口満(ひぐち・みつる) 1949年生まれ。早稲田大学スポーツ科学学術院名誉教授。アクティヴ・エイジング研究所顧問。教育学博士。名古屋大学理学部化学科卒業。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。専攻は健康スポーツ科学、スポーツ栄養学。ハンガリー体育大学名誉博士。日本スポーツ栄養学会・日本体育学会名誉会員。第20回秩父宮記念スポーツ医・科学賞功労賞受賞。著書に「体力の正体は筋肉」「女は筋肉 男は脂肪」など多数。