バレーボール男子の元日本代表主将で、今シーズン限りで現役を引退した越川優さん(37)は高校生で全日本に選ばれた頃から食意識が高かった。2014-15年シーズンのV・プレミアリーグ でJTサンダーズを初優勝に導いた後、ビーチバレーに転向。2年前に“インドア”に復帰し、現役最後のチームとなったV2チームのヴォレアス北海道をV1昇格まであと一歩のところまで引き上げた。長い現役生活の下支えとなったのは、食事だった。【聞き手・中西美雁】

食事について語る越川さん(撮影・坂本清)
食事について語る越川さん(撮影・坂本清)

-越川さんの好きな食べ物といえば「あんこ」ですよね

子どもの頃から好きですね。ほかには肉、魚も好きです。

-苦手なものは

トマトジュースとトマトジュースベースの野菜ジュースが苦手です。トマト自体はめっちゃ好きです。

-子どもの頃の食生活は

中学生ぐらいは、めっちゃ食べてました。お肉だけでなく食事自体をたくさんとっていましたね。

笑顔でプレーする越川さん(撮影・坂本清)
笑顔でプレーする越川さん(撮影・坂本清)

-その頃からアスリートとして食を意識していた?

いえ、全く。ただ学生のときは、身長を伸ばしたくて牛乳をたくさん飲みました。「1日2L飲む」と決めて、3年間続けました。

-それはすごい。バレー選手は牛乳を飲んでいた人が多いですね

中学校は給食じゃなかったんですけど、牛乳だけは絶対出ました。必ず、牛乳がダメで飲まない子がいたので、余っていた分と自分の分と合わせて飲んでいました。それに加えて、学校全体で余った牛乳を廃棄しないでバレー部がもらっていたので、練習前にも飲んでいました。

あとは家で飲んだ分です。大体700ml入る大きなコップが家にあって、朝食のテーブルの上にはなみなみ牛乳が入ったものが出されていて。学校から帰ってきた時も、夕飯の前に出されていました。それで1日2L以上になりますかね。飲まないと「あんたが飲むって言うから買ってきたんだよ」「飲まないんだったらもう明日から買ってこないよ」って母親から言われて(笑)。

-お母様のおかげですね

多分、それで骨も強くなったし、身長も伸びた。中学校3年間が一番伸びました。身長に関しては、牛乳が一番影響したかなと思っています。

-食事もしっかりとっていた

ただ、あんまり白ご飯が好きじゃなかった。混ぜご飯や炊き込みご飯など、味がついているご飯だったら量を食べることができました。カレーとかも食べられましたね。

スパイクを打つ越川さん(撮影・坂本清)
スパイクを打つ越川さん(撮影・坂本清)

-「おふくろの味」は

特にありませんね。例えば、今(地元の)石川県に帰って、必ず作ってもらうものは特にありません。家に帰るとしても1~2日だから、だいたい家族や親戚と外食してしまいます。うちは両親共働きだったので、あまり凝ったものを作らなかったからかな。

小学生の頃はおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に住んでいて、おじいちゃんが魚が好きだったから、毎日お刺身を食べていました。

-すごくうらやましい

よくそう言われるんですけど、(地元では)お肉よりお刺身のほうが全然安いから、ぜいたくしている感覚はありませんでした。毎日4種類くらいのお刺身を食べてたかな。石川は、お魚が美味しいです。

越川さんのある日(試合前)の食事(本人提供)
越川さんのある日(試合前)の食事(本人提供)

-食について意識し始めたのはいつ頃からか

高校(岡谷工)に入ってからですね。高校は寮で、寮母さん(総監督であり、監督夫人である、おばちゃん)がご飯を作ってくれていたので、出されるものを食べていました。結構、タンパク質量が多いおかずで、ご飯と納豆は食べたい人が食べたいだけ食べられた。でも基本的に、白ご飯をたくさん食べなくてもおなかいっぱいになるぐらいおかずの量が多かったので、それほど僕は白ご飯を食べませんでした。

また、栄養指導の講習会みたいなものもやっていたので、栄養面を意識するようになりました。例えば、試合の前はどういう栄養素やどのくらいエネルギーをとるのか、そのためにどういう食事をとるのかという勉強をしました。

-現在、試合前の食事で気をつけていることは

食事のタイミングと、炭水化物の量というかバランスですね。バランス良くではなく、炭水化物とタンパク質、他の栄養素のバランスを意識してます。

-サントリーに入社後の食事では

サントリーに入って社会人になって1~2年目は、高校で教えてもらったことを自分なりに実践していました。3年目以降は栄養士と契約しました。その栄養士さんに指導してもらって、レシピなども提供してもらった感じですね。

-高卒選手として社会人になった時点ですでに体が出来上がっている印象があった

僕の幼少期の食事内容の話になったときに、栄養士さんから「たまたまタンパク質量が多いものが好きだったことが、体作りに影響している」と言われました。

越川さんのある日(試合前夜)の食事(本人提供)
越川さんのある日(試合前夜)の食事(本人提供)

-30代後半になって気を付けるようになったことは

若いときと比べると、メリハリをつけるようになってますかね。揚げ物や脂っこいものはあまり食べなくなりました。もちろん、アスリートとして意識してますけど、意識というより、それがもう普通の食生活になっているという感じですね。

普段、練習があるときは、自然にこういう食事にしようとか、こういう栄養素とった方がいいなという思考になっていますが、特にストレスはかかってないです。練習が休みの時は揚げ物を食べるかもしれないけど、練習がある時は自分がしんどくなるから食べないといった感じです。

越川さんのある日(試合前夜)の食事(本人提供)
越川さんのある日(試合前夜)の食事(本人提供)

-(ヴォレアス北海道のある)北海道のおすすめ食べ物は

北海道全体でいうと、ジンギスカンかな。あとは魚介類がおいしいです。でも、魚介類は石川もおいしいか。そうだ、北海道に来て一番驚いたのは、野菜がおいしいことです。ヴォレアス北海道のある旭川は、海の近くではないので、むしろ野菜のおいしさに感動しました。

-最後に、成長期のアスリートにアドバイスを

今季限りで引退しますが、37歳まで現役を続けられたのは食事のおかげだと思います。皆さんも、ケガや大きな故障もなくプレーを続けたいなら食生活を意識すべきだと思います。

まずしっかり規則正しく食べること。そして今はネット社会なので、いろんな情報が出回っています。すべてを鵜呑みにせず、自分でしっかりと考えて実践することが必要です。

サプリメントもいろいろなものがありますが、サプリメントは“補助”食品でしかないので、それに頼りすぎないで欲しいと思います。サプリメントは人間が作っているもので、自然のものとは絶対に違います。僕もサプリメントは、食事と併用でとるようにしてきました。サプリメントを選ぶにしてもどういう効果があって、逆にどういうリスクがあるのかを調べて、自分の責任で手に取って欲しいと思います。

最後に、皆さん食事を楽しみましょう。

サーブを打つ越川さん(撮影・坂本清)
サーブを打つ越川さん(撮影・坂本清)

◆越川優(こしかわ・ゆう) 1984年6月30日生まれ、石川県金沢市出身。岡谷工(長野)では2年時にエースとして春高準優勝、インターハイ優勝。男子では初の高校生として日本代表に抜擢された。高校卒業後の2003年にサントリー・サンバーズに入団。04年以降、代表に定着し、08年北京五輪に出場。その後、イタリア・セリエA2部のパドヴァで3年間プレー。帰国後、サントリーを経てJTサンダーズに入団し、創部以来初優勝を果たす原動力として活躍し、MVPを受賞した。17年にビーチバレーに転向したが、20年にV2のヴォレアス北海道でインドアに復帰し、今季V2優勝に貢献。入れ替え戦をもって引退した。ポジションはウイングスパイカー。189センチ、86キロ。