広島にリーグ3連覇をもたらし、新しく日刊スポーツ評論家に就任した緒方孝市氏(51)が「3連覇思想」と題して連載を執筆。2回目は緒方氏が好選手の“要素”について語ります。
すっかり日本の4番打者になった鈴木誠也、この日は二盗、三盗で走れるところを見せていた。監督時代、彼を注意したのは一度だけだと思う。その原因にもなるのだが、誠也のどこが人と違うと言って、その負けず嫌いぶりだ。打てないと異様に悔しがるのだ。
その姿を見て自分の現役時代を思い出した。例えば阪神が「JFK」で優勝した05年。左腕ジェフ・ウイリアムスのスライダー、調子がいいときは空振りした後にそのまま腹にボコッと当たるんじゃないかと思うほどキレが良かった。
そんな球を投げられ、三振すれば悔しいのは当然だ。同時に頭のどこかで「あの球は仕方ないだろう」と思う部分もあった。あのスライダーは誰も打てない。納得というよりも素直にそう思っていた。
だが誠也は違う。相手がどんな好投手であっても勝負どころで打ち取られると荒れる。ベンチに戻ってくると鬼のような形相でバットを投げ、ヘルメットを投げ、揚げ句の果てに革手袋をびりびり引きちぎる。
現役時代の同僚で言えば前田智徳氏(野球解説者)がそんな感じだった。彼がヘルメットを投げる場面はよくあった。だが誠也はそれ以上に荒れていた。
あるタイミングで誠也を呼んだ。悔しくて荒れるのはいい。しかしベンチの中でやるとテレビカメラに抜かれる。誠也にあこがれている野球少年はそれを見てどう感じると思う? どういう印象を与えると思う? そんな話をした。誠也はすぐに理解、納得し、それからベンチの中で暴れることはなくなった。
そこが誠也のすごさだと思う。あれほどの振る舞いをする闘争心と指摘をすぐに理解する知性が同居している。だからここまで存在感のある選手になったのではないかと思っている。
大瀬良大地もそうだ。藤浪晋太郎に死球を食らったときに「いいよ、いいよ」と笑顔で応じたことがあった。若い人は「神対応」とか言っていたようだが、戦いの中でそれでは困る。
監督室に呼んで「いい人はグラウンドの外でやってくれ」と言った。人柄のいい男だが、指摘の意味は分かってくれたと思うし、だからこそ今の立場があるのではと思う。
監督、コーチの指導、考えを理解し、実行できればベストだ。しかし理解できるレベルに来ていない選手もいる。実績を残すには知性が必要だ。指導者もそういう部分を見ていく必要はあると考えている。(日刊スポーツ評論家)
(2020年6月4日、ニッカンスポーツ・コム掲載)