各界のプロフェッショナルの子ども時代や競技との出会いなどに迫る「プロに聞く」。今回は、大相撲の幕内で活躍する北勝富士(28=八角)です。角界入りして6年。最高位は小結で金星を7個獲得。現在は新大関昇進を目指して奮闘している。埼玉栄高、日体大出身とアマチュア相撲のエリート街道を歩んできた北勝富士は、周囲への感謝の思いを胸に土俵に上がっている。

2016年5月、新十両昇進が決まり師匠の八角理事長(右)と握手を交わす大輝(当時)
2016年5月、新十両昇進が決まり師匠の八角理事長(右)と握手を交わす大輝(当時)

相撲との出会いは小学2年生の時だった。地元の埼玉・所沢市で開催されたわんぱく相撲に、何げなく出場。おむつをつけている時からやっていたスキーの腕前は、3歳の頃から上級者コースで滑るほどだったが、相撲は初心者。それでも2位に輝き、3年時も2位だった。「2年連続で同じ相手に負けた。それが悔しくて。それに、優勝した子がもらった大きなトロフィーを自分も欲しいなって」。優勝トロフィー欲しさに、小学4年から地元の相撲クラブに通い始めたのが、相撲道への入り口だった。

めきめきと成長を遂げ、小学6年生の時には「県内で敵なしでした」と胸を張る。中学3年時には、全国都道府県相撲選手権大会の個人戦で優勝。埼玉栄高では3年時に団体戦で優勝し、個人戦は高校横綱に輝いた。それでも「おごることはなかったです」と話す理由には、結果を出すたびに、ある思いが湧き上がってきたからだった。

北勝富士 高校で初めて実家を離れて寮生活をして、今まで当たり前だったことが当たり前ではないと知った。周囲からの支えがなければ何もできないし、相撲ができているのも周囲の支えがあってからこそだと感じた。感謝の気持ちと相手を思いやる気持ちを学びました。この気持ちがあったからこそ、今もプロでここまでやれているんだと思います。

2015年12月、大輝として八角部屋に入門
2015年12月、大輝として八角部屋に入門

実家にいれば当たり前のように用意された食事や、両親による掃除や洗濯などの家事全般。全国各地で開催される大会に、必ず足を運んでくれた両親。高校で寮生活をして初めて、これまで当たり前だった日常や両親に対しての感謝が芽生えた。

その気持ちは日体大進学後も変わらず。3年時に国体の個人戦で優勝し、1年間しか行使できない幕下15枚目格付け出し資格を取得した。しかし、「せっかく大学に入れてくれた両親に申し訳ない。ちゃんと4年間通って卒業したい」と中退しての角界入りは見送った。4年時はタイトルに恵まれず、幕下格付け出しの資格を得られずに前相撲からの出発となった。それでも「後悔はない。4年間大学に通わせてくれた両親に感謝です」と話す。その、周囲への感謝の気持ちを、子どもの時から持てれば、競技にもプラスになると考えている。

北勝富士 感謝の気持ちが出始めてから、より一層、競技に打ち込むことができました。支えてくれた周囲の人へ恩返しをしたいと思うようになりましたし、そういった思いが人間性にもつながったと思います。競技がうまくなることに越したことはありません。ただ、競技はもちろん、人として成長できるかも重要ではないでしょうか。競技を引退しても、人生は続くのですから。

2017年7月、北勝富士(左)は名古屋場所3日目に横綱鶴竜を押し出して初金星
2017年7月、北勝富士(左)は名古屋場所3日目に横綱鶴竜を押し出して初金星

角界入りした現在も、感謝の思いを持ち続ける。稽古で指導してくれる師匠の八角親方(元横綱北勝海)や、本場所中は毎日連絡をくれる両親。身の回りの世話をしてくれる付け人や後援会関係者など、多くの人に支えられながら土俵に上がっている。「結果を出せば出すほど、支えてくれた人のことが頭に浮かびます。これからも自分だけではなく、みんなのために土俵に上がり続けたい」と口にする。

周囲への恩返しの1つ目は、大関に昇進することだ。「やっぱり力士は番付を上げてなんぼ。コロナの影響で会えない人もたくさんいる。吉報を届けたい」と話す。今日も周囲のことを思い、土俵に上がる。【佐々木隆史】

有名な埼玉・深谷市のゆるキャラ「ふっかちゃん」にあやかり、地元所沢市のゆるキャラ「トコろん」の化粧まわしをアピールする北勝富士(2017年4月24日)
有名な埼玉・深谷市のゆるキャラ「ふっかちゃん」にあやかり、地元所沢市のゆるキャラ「トコろん」の化粧まわしをアピールする北勝富士(2017年4月24日)

◆北勝富士大輝(ほくとふじ・だいき)1992年(平4)7月15日生まれ、埼玉・所沢市出身。本名は中村大輝。小4から相撲を始め埼玉栄高3年で高校横綱、日体大2年で学生横綱。八角部屋から15年春場所で初土俵。16年九州場所の新入幕を機にしこ名を大輝から改名。師匠の八角親方が現役だった当時の師匠、北の富士勝昭氏(元横綱)にちなむ。19年春場所で新小結に昇進。家族は真美夫人。185センチ、162キロ。

(2021年1月23日、ニッカンスポーツ・コム掲載)