<スポーツする人の栄養・食事学/第1章 からだにいい食事や栄養とはなにか(3)>
Q、筋肉をつけるためには、やはり肉を食べないといけませんか?
A、筋肉をつけるためには、肉に限らず、魚、卵、乳製品などに多く含まれる動物性の良質なたんぱく質摂取が欠かせません。高たんぱく質でかつ低脂質の食品を選び、たんぱく質の代謝を促すビタミンB群をたっぷり摂取することです。動物性たんぱく質を多く含む食品は脂肪分が多いため、食べ過ぎや偏り過ぎには注意が必要です。
「たんぱく質なくして筋肉は語れない」といわれるように、筋肉をつくるのにたんぱく質が重要であることは、よく知られています。
三大栄養素のうち、筋肉や血液など体の組織や細胞をつくる体組成成分としてもっとも比率が高いのがたんぱく質の16・4%で、脂質は15・3%、糖質はわずか1%未満です(『食生活改善指導担当者研修テキスト』厚生労働省)。
運動などで強い負荷がかかり傷ついた筋線維は、たんぱく質を材料に、成長ホルモンなどの力を借りて修復され、回復するとより太くなり、筋力もアップします。タイミングよくたんぱく質をとることで、筋肉のつき方にも差が出てきます。
全身あるいは局所の筋肉群に強い負荷(レジスタンス)をかけて筋肉の機能を高めるレジスタンス運動、いわゆる筋トレを行うと、運動の1~2時間後に筋たんぱく質合成の速度が高まって筋肉が肥大し、それが48時間持続することが分かっています(下の図)。
したがって、たんぱく質はレジスタンス運動後のタイミングで摂取するのが効果的といえるでしょう。
必須アミノ酸をバランス良く
そもそもたんぱく質は、20種類のアミノ酸が鎖状に連結したもので、並ぶ順番や連なる長さによって種類や働きが決まります。20種類のアミノ酸のうち体内で合成できないか、ごくわずかな量しか合成できないものは「必須アミノ酸」といわれ、9種類あります。
たんぱく質には、肉や魚、卵、乳製品などに多く含まれる動物性と、豆腐や納豆などの大豆製品に多く含まれる植物性があります。動物性のほうが、この必須アミノ酸がバランスよく体内に吸収されるので、筋肉や血液のことを考えると動物性の摂取は欠かせません。「良質なたんぱく質をとりましょう」といわれる場合の良質とは、やはり必須アミノ酸がバランスよく含まれ体内での利用効率が高いという意味です。
「BCAA」が筋肉づくりに重要な役割
必須アミノ酸のうち、牛肉やサケ、牛乳に多く含まれるロイシンに、バリン、イソロイシンを加えた3つは「分岐鎖アミノ酸(BCAA:Branched Chain Amino Acids)」と呼ばれ、筋肉づくりにとても重要な役割をしています。
特に、牛乳に含まれる約3・3%のたんぱく質の80%がカゼイン、残りの20%がホエイ(乳清)で、いずれも筋たんぱく質の原材料になります。このホエイには分岐鎖アミノ酸が多く含まれていて吸収もスムーズなことから、練習や試合の後にできるだけ早く牛乳を飲むと筋肉の回復を促します。
しかし、植物性たんぱく質を多く含む大豆や大豆製品も、お米やパンと組み合わせれば、それぞれに不足している必須アミノ酸を補い合うことができます。
ここで注意しなければいけないのは、動物性たんぱく質を多く含む食品は脂肪分も多いために食べ過ぎない、偏り過ぎないようにすることです。
余談ですが、牛や馬、カンガルーなどの草食動物は、植物(草)しか食べないのになぜ体が大きく成長し、筋肉がたくさんついているのか疑問に思われるかもしれません。
実は、草食動物の消化器官内には、「共生微生物」と呼ばれる細菌(バクテリア)や原虫(原生動物)が寄生していて、その働きによって動物が消化できない物質を分解したり、たんぱく質やビタミン類を合成したりして、たんぱく質を直接摂取しなくても筋肉などに必要な栄養素がつくられているのです。このように、共生微生物が体に対して栄養的に寄与する働きを「共生栄養」といいます。
(つづく)
- 「スポーツする人の栄養・食事学」(樋口満、集英社新書)より抜粋
- 筆者・樋口満早大名誉教授がこの本に込めた思い