<スポーツする人の栄養・食事学/第1章 からだにいい食事や栄養とはなにか(5)>
Q、バネのような体にしたいのですが、腱や靭帯を強くするにはどうしたらいいですか?
A、腱はおもに線維状のコラーゲンたんぱく質、靭帯もコラーゲン線維を密に含んでいます。強くするには、コラーゲンを多く含む食材と、コラーゲン線維の合成を促すビタミンCの摂取が欠かせません。
残念ながら、スポーツにケガはつきものといわざるをえません。しかし、ケガをおそれていては、スポーツはできません。食事によってケガを完全に予防するのは無理ですが、ケガをしにくい体づくりはできますし、ケガをしても回復を早めることはできます。
スポーツ中のケガは、捻挫(靭帯損傷)、骨折、挫傷(打撲)、創傷、脱臼、腱断裂、筋断裂(肉離れ)とさまざまですが、もっとも多い捻挫をしにくい体づくりに必要なのは、骨と骨とをつなぐ靭帯と、骨と骨格筋をつなぐ腱の強化です。ジャンプする、ダッシュする、回転するといったさまざまな動作をするスポーツでは、腱と靭帯が重要な役割をしているからです。
腱や靱帯とはどういったものか
腱は、筋肉の両端にあって、筋肉を骨に付着させる線維性の白いひも状の組織で、アキレス腱がよく知られています。付着部分を見ると、腱線維の一部は骨膜に付着し、一部は骨質内に入り込んでいます。
腱はおもに線維状のコラーゲンたんぱく質でできていて、断面積わずか1平方cmあたり500kgの張力に耐えられるほどのきわめて強靭なものです。アキレス腱の断裂は比較的多いスポーツによるケガですが、断裂といってもアキレス腱が切れるのではなく、腱と骨との付着部分がはがれて歩行不能になることをいいます。
靭帯は、骨と骨とをつなぎ、関節の運動を滑らかにしたり制限したりする、強い弾力性のある帯状の線維性の組織です。指やひざの関節をのばしたまま固定できるのも、関節をスムーズに動かせるのも、関節を帯状に囲んでクッションや潤滑油(滑液を満たした袋)の役割をはたしている靭帯のおかげです。靭帯も腱と同じようにコラーゲン線維を密に含み、さらに弾性たんぱく質エラスチンの線維を含んでいます。
「バネ」をきたえる栄養素
スポーツ選手の弾力、瞬発力を「バネのような体」とよくいいますが、そのバネをきたえるためには、筋肉をつけるたんぱく質、関節の弾力性を保つコラーゲン、しっかりした骨をつくるためのカルシウムの摂取が欠かせません。
コラーゲンは特別なたんぱく質ではなく、私たちの体を構成するたんぱく質の約30%を占めています。
そして、私たちが毎日食べている肉や魚などの動物性たんぱく質に多く含まれており、通常は摂取が不足することはありません。
コラーゲンは、鶏手羽先、鶏手羽元、鶏の皮、鶏軟骨、鶏砂肝、牛スジ肉、牛テール、豚白もつ、豚バラ肉、豚足といった動物性の食材、フカヒレ、エイヒレ、クラゲ、ナマコ、アンコウ、ハモ、スッポン、ウナギといった魚介食品に多く含まれています。食材によっては、緑黄色野菜と一緒に、鍋物や汁物にすると食べやすいでしょう。
コラーゲンを多く含む食材には脂質も多く含まれている場合があるので、とりすぎれば肥満、腎臓の障害によるむくみやだるさにつながります。1日に大量のコラーゲンを摂取しても意味がなく、1日に10g程度を毎日とり続けるのが効果的です。
コラーゲン線維の合成に必須のビタミンCも欠かせません。ビタミンCの欠乏による壊血病は、コラーゲンが完全な形に合成されないために細胞と細胞をしっかりと結合させることができないことによって発症します。ミカン、レモン、グレープフルーツ、イチゴ、キウイフルーツなどの果物や100%果汁ジュース、パプリカやブロッコリーなどのサラダ、サツマイモ、ジャガイモを使った煮物などでしっかりとりましょう。
(つづく)
- 「スポーツする人の栄養・食事学」(樋口満、集英社新書)より抜粋
- 筆者・樋口満早大名誉教授がこの本に込めた思い