視覚に障がいのある選手が行うブラインドサッカーの男子日本代表が、パリパラリンピック(8月28日開幕)でのメダル獲得に向けて、増量とフィジカル強化でパワーアップした。メダル争いのライバルとの体格差を埋めるため、食事改善とウェイトトレーニングを実施。プレーも、より攻撃的にレベルアップしている。

開催国として初出場した東京パラでは5位だったが、今大会は初めて予選を勝ち抜き、出場権を獲得した。前哨戦となる国際大会でも好成績を残し、世界ランクも史上最高の3位に上昇した日本代表が、食事でどのような取り組みをしてきたのか、都内での強化合宿中に話を聞いた。

ブラインドサッカー男子日本代表のメンバー
ブラインドサッカー男子日本代表のメンバー

キーワードは「BMI24」

昨年8月、イギリスで行われた世界選手権で5位となり、パリの切符を手にした日本代表は、次の照準をメダル獲得に定めた。ライバルとなるのは6大会連続で金メダルを狙うブラジル、世界ランク1位のアルゼンチン、中国といった強豪国。他国を分析する中で、選手の体格差が目に留まり、「BMI24」というキーワードが浮き彫りになってきた。

BMIは「体重(kg)÷身長(m)の2乗」の計算式で出される体格指数のことで、一般的には25以上になると肥満、22前後が最も健康体と言われている。筋肉量の多いサッカーなどのアスリートはBMIが高めにでるが、日本代表は他国に及ばず、これがパワー不足につながっているとして、ライバル国の体格と同等となる24以上まで引き上げるというプランを立てた。

大室龍大フィジカルコンディショニングコーチが、プレー動画を見せて解説してくれた。

大室コーチ これまでの日本はスピードと交わす技術で長けていたものの、コンタクトプレーで倒されたり、壁際の攻防でボールを奪われたりするのが弱点でした。他国よりも圧倒的に転ぶ回数が多かったんです。さらに、試合時間が前後半20分ハーフから15分ハーフと変更されたことで、短時間での得点力、つまりパワーが求められるようになったのです。

ウィークポイントを克服し、新ルールの下でメダルを獲得するには、筋肉量を増やしての増量が至上命題だとなった。

ウェイトトレーニングに励む日本代表の選手たち
ウェイトトレーニングに励む日本代表の選手たち

山田優香管理栄養士が食事サポート

食事は、2023年3月からチームに入った管理栄養士の山田優香さんがサポートしている。かつて明大ラグビー部の食事管理を8年間行うなど増量指導に定評がある山田さんは、世界選手権までは「除脂肪体重を110%、持久力を109%、筋力パワーを110%にアップしたい」というチームの意向に沿って、効率よく増量する食事のテクニックや、高タンパク質・低脂肪の食事や量をアドバイスした。

世界選手権後はもう一段階ギアが上がり、小柄な日本代表が世界に勝つために、選手と細かくコミュニケーションをとりながら食のアドバイスを続けている。

山田さんは、体組成と筋力などからチームを3つに分けて、まずは目標体重をクリアするよう切磋琢磨させた。

①BMI24以下の増量必須グループ
②BMI24以上で体重はOKだが、筋力アップが必須のグループ
③BMI24以上で筋力もOK。身体の使い方や敏捷性を高めるグループ

提供=山田管理栄養士
提供=山田管理栄養士

5キロ増量の永盛楓人は筋力も飛躍的向上

そんな中、この1年で目標体重をクリアし、筋力が飛躍的に向上したのが、フィールドプレーヤー(FP)の永盛楓人(ふうと、23)だ。冬場のトレーニング時期に170センチ、71キロと、昨年から比べると5キロも増量した。

白米の量は、朝と夜は1.5合(約500g)、昼は社食で300g。「ご飯を夜寝る前に食べて増量しました」とポイントを教えてくれた。体重が増えた当初は体のキレに違和感があったが、「筋トレをすることで、自分の体に慣れてきました。あとはしっかり調整して出番に備えます」と話した。

増量にも成功し、パワーアップした永盛楓人
増量にも成功し、パワーアップした永盛楓人

最初は増量に躊躇した選手も…

しかし、最初から素直に増量に取り組んだ選手ばかりではない。反発も大きかった。特に、体のキレを武器に経験を積んできた選手は「増量したら、今のように動けなくなるんじゃないか」と疑心暗鬼にもなっていた。

中川英治監督(50)は、そんな選手の声を受け止めた上で「でも、自分たちはメダルを取れていない。もう1つ上にいくにはトライするしかない。体が大きくなってもトレーニングし続ければ、問題ないんじゃないか。ネガティブなことを考えるのではなく、体の可動域や筋肉量を上げて動ける体を作っていこう」と選手を鼓舞し、前を向かせた。

ウェイトトレーニング中、選手に声をかける中川監督
ウェイトトレーニング中、選手に声をかける中川監督

次第に1人、2人と増量に取り組む選手が出始め、プレーにも好影響が出るようになってきた。すると、不安がっていた選手も追随した。

今年3月にタイで行われた国際大会で日本は優勝。5月にフランスで行われたワールドグランプリでは4位となった。メダルは取れなかったものの、パリパラに出場する8カ国中7カ国が参加した大会で手応えをつかみ、他国からも「日本は大きくなった」と評価されるようになってきた。ライバルにも脅威を与える存在となってきた。

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