夏バテ対策と効果的な栄養素

夏バテに明確な定義はありませんが、暑い夏に、食欲がない、体がだるい、疲れがなかなかとれない、息切れや動悸が激しい、頭痛やめまい、下痢、吐き気、熱っぽい、無気力になるといった自覚症状がしばらく続いた状態をいいます。

夏バテの原因は、体温調節を行う自律神経の乱れ、水分不足による血液やリンパの流れの滞り、冷たい飲み物の過剰摂取による胃腸の働きの乱れ、睡眠不足などが挙げられます。

夏バテの予防には、成人で1日に最低でも1~1・5ℓ、運動したらそれ以上の水分補給が必要です。自律神経の乱れを整えるには、しっかり睡眠をとります。夜になって、副交感神経の働きを高めるには、ゆっくり湯船につかってリラックスするのも効果的です。

さらに重要なのは食事です。夏は冷たい食べ物が好まれますが、できるだけ控えるか加熱処理をして胃腸を冷やさないようにします。1日3食、欠食せずにしっかり食べましょう。食欲がないとつい簡単なメニューで済ませがちですが、たんぱく質、糖質、脂質にビタミン、ミネラルもしっかりとるようにします。

食欲を増進させるには、酸っぱいもの、ピリッと辛いもの、しょっぱいもの、風味を加えるものなどスパイスを上手に生かすといいでしょう。梅干しや酢などの酸味には、食欲を増進させる働きが期待できます。

また、ビタミンB群の摂取も欠かせません。糖質をエネルギーに変換したり、老廃物の代謝にも関係していて、疲労回復や食欲増進の働きがあります。水溶性のために、特に汗を多くかく夏場に不足しがちになる栄養素です。ビタミンB1は、豊富な豚もも肉以外にも、玄米(胚芽)、レバー、カツオ、ウナギにも含まれています。タマネギやニンニクに含まれる成分アリシン(硫化アリル)成分は、ビタミンB1の吸収率を上げ、新陳代謝を高める効果がありますので、一緒に食べるようにします。

夏バテの予防には、クエン酸やビタミンCを強化した飲料を補給することをおすすめします。レモン、グレープフルーツ、夏ミカンなど、柑橘系の果物に多く含まれています。

カルシウム、ナトリウム、鉄、亜鉛など体の組織や機能を調整しているミネラルは、非常に吸収しにくい栄養素ですが、腸からの吸収を高めてくれるのが、クエン酸です。

特に、夏に怖い熱中症による脱水症状を改善するには、水分だけではなくミネラルの摂取が大切です。ミネラルの吸収をサポートする働きに期待して、クエン酸が含まれているものを水分補給に使用すると、熱中症の対策にもより効果的です。クエン酸は一度に多くとっても体外に排出されますから、1日何回かに分け、毎日とり続けることが大切です。

疲労回復には、玄米、豚肉、ウナギ、豆類、ネギ、山芋といった高たんぱく、高ビタミンの栄養価の高い食材もしっかりとります。

強い疲労感の原因と摂りたい栄養素

スポーツをする人のパフォーマンス(競技能力)は、競技の特性に見合った高い強度のトレーニングを継続的に行った後、食事や休養をしっかりとることで得られるものです。

しかし、疲れが抜けきらない、いわば強い疲労感がある状態ではトレーニングの効果は十分に発揮できませんから、少しでも早い疲労回復が求められます。

これまで、疲労の原因としてエネルギーの枯渇が挙げられ、ウナギやニンニク、焼き肉といった“スタミナのつく食べ物”や、栄養ドリンクで軽減するといわれてきました。

しかし、運動をして体が疲れを感じるのはエネルギーが不足したからではなく、大多数の人が、体内で活性酸素が過剰に発生して細胞が錆びてしまう、いわゆる「酸化ストレス」によって細胞本来の働きができなくなるからという説が今では有力です。

では、活性酸素、酸化ストレスとはなんでしょう。 私たちは呼吸によって体内にとり込んだ酸素を利用して生命活動を維持していますが、その一部は、活性酸素に変化します。

活性酸素は、体内の免疫機能や感染防御、細胞間のシグナル伝達物質として重要な役割を担っていますが、いっぽうで悪さもします。

通常、体内には、活性酸素の産生を抑制したり、生じたダメージの修復や再生を促したりする生体防御システム「抗酸化機構」が備わっていますが、それを上回って活性酸素が過剰に産生されてしまうと細胞を傷つけ、老化を促進し、がん、心血管疾患、生活習慣病などさまざまな疾患を招いてしまうのです。このように、抗酸化機構のバランスが崩れてしまった状態を酸化ストレスといいます。

活性酸素が過剰に産生され酸化ストレスを招くリスク因子としては、病原菌、薬剤(抗がん剤)、飲酒・喫煙、太陽紫外線、放射線、超音波、排煙・排気ガスなどのほか、過度の運動による酸素の大量消費やストレスが考えられます。

適度な運動は筋肉内の抗酸化酵素を増やす作用がありますが、食事による抗酸化ビタミンの摂取と相まってこそ、筋肉をはじめとした体へのダメージを防ぐことができるのです。

今から約30年前に、活性酸素やストレスに着目して、スポーツ健康法が花盛りの風潮に科学的な警鐘を鳴らした『スポーツは体にわるい 酸素毒とストレスの生物学』(加藤邦彦著、光文社、1992年)が出版され、話題となりました。なぜ酸素は有毒か、なぜスポーツはストレスかにはじまり、スポーツで体をこわさないための提言で終わる内容です。

著者は、自由にスポーツができるのは幸せなことだとしたうえで、スポーツ健康法を盲信し、「スポーツは体によい」という幻想に巻き込まれ、過度のトレーニングの結果、体をこわし寿命を縮めるのは愚の骨頂であると強く戒めています。

薬に適量があるように、トレーニングにも適切な量があります。まさに、「過ぎたるは猶及ばざるがごとし」で、特にジュニアやシニアのスポーツ愛好家には注意が必要です。

(つづく)